寮に帰って、すぐに向かったのは、涙花の部屋だった。

別にいきたいって思ったわけじゃないけど、気づいたら、女子寮にいた。

 やっぱり気になっていた。頭は行かないと言ってるのに身体が勝手に動いてしまう。
そんな自分を見ながら、やっぱり涙花が好きだと実感する。
 女子寮に男子が遊びに行くのは、不思議じゃない。
女子寮には特別図書館があるし、そこにくる勉強熱心なやつもたくさんいた。

ただ、部屋で男女二人きりになるのは禁止されていた。
 だから、男子寮でも女子寮でも、涙花と会うときはいつも図書館だった。

「-…」

かすかに聞こえる声。

ここを右に曲がったら、涙花たちの部屋。
 とりあえず俺は、涙花たちの部屋より、その突き当たりにある図書館を目指した。
勉強道具ももってるし、もし見つかったら歴史の勉強をしにきた。といえばいい。


…曲がらず、突き当りを目指そう。また戻ったらいいんだしー…

フッと横目でみた涙花の部屋。

「大丈夫かな…?」

「でも、ひどいよねー…」

やべ…

涙花より強気な工藤都!
確か雅のほうはまだおとなしくて…。
 それにあの子は涙花と同室の宇野…

…逃げたほうがいいかもしれない。

「あっ!早瀬!」

ヤバイ!って思っても足はその声に反応して止まってしまった。
心の中でも、涙花を一目見たい、と思っている。

「てめー涙花に何してんだよ!」
「…どっちだよ」
「都だよ!」

ぶち切れの工藤都は俺の胸ぐらをつかんでくる。
…涙花の友達には美人が多いなぁ。
 今の状況に関係ないことを思い、顔がゆがむのを抑える。

「都ちゃん、ここじゃ涙ちゃんに聞こえちゃう」

¨宇野はヤマトナデシコ系だな¨

何を言われても真顔。
ー…それがきっと、一番相手を怒らせる。

「っ何で真顔なんだよ…」
宇野に言われて急に小さくなる、工藤都の声。

「離してくれないかな?工藤さん。俺は図書館へ行きたいんだ。
…俺は、涙花の話をしにきたわけじゃない」

バシッと工藤都の手を払いのけ、制服の乱れを正す。
 

ー…少しの制服の乱れも受験の対応だ。