「ねぇ、和泉くん」

…いつのはなしだろうか。涙花が俺を¨君¨付けで呼んでいたときのこと。
俺の記憶が間違ってなければ、多分幼稚園卒業間近の頃。

「なに、ルイカ」
俺はかっこつけて、缶コーラをごくごくと飲んでいた。

涙花は地面にお姫様の絵を書きながら、その口を開く。

「和泉くんは、好きな人…いる?」


ポソリとつぶやかれた言葉に、俺は目を見開き、彼女を見つめる。

「…なんで?」

「…だって和泉くん、涙花以外の子とも、たくさんしゃべるんだもん。
涙花は和泉くんのことが好きだから、ヤキモチやいちゃうの」
子供ながら、すげー告白だな。と思った。

でも俺はそのころから涙花に惹かれていたし、小さい頭ながらに涙花も俺が好きと、確信していたから、特に驚かなかった。

「俺もルイカが好きだよ」
「本当?なら、和泉くんのこと、呼び捨てにしていいよね?」

さっきまで地面を見ていた涙花の瞳を俺の瞳をとらえ、逃がさない。


その瞳を見つめていられたのは、せいぜい10秒。
それは年を増すごとに短くなっていく。

 きっと俺が思うに、涙花の頭の中では恋人同士は、呼び捨てじゃないといけないっていうのがあったんだ。


「いいよ」
「ふふ…和泉」

「ん?」
「和泉」

「何だよ」
「和~泉~」

「怒るぞ…」

意地張ってクールに決めてた俺は、涙花の一言でボロボロに崩れてしまう。
呼び捨てにされて、うれしかったのもバレた。

照れてるのもバレた。







  でも、涙花の顔みてると、どうでもよくなった。