俺のクラスメートに、変わった女子が一人いる。
 彼女の名前は『土偶』
 もちろんそれはあだ名だ。

 本名は『森田』で、下の名前は……忘れたので、以後あだ名の土偶で呼ぶ。

 どうして彼女に土偶というあだ名が付いたのかは、おそらく見た目だろう。大きい目をギョロギョロさせ、人より肌が黒いのだ。れっきとした日本人なのだけれども。

 俺と土偶は腐れ縁で、幼稚園から中学三年生の現在までずっと同じクラス。特に仲が良いわけでもない。まして恋人というわけでもない。それなのに、先生や周りのクラスメートも、俺に土偶を任せているところがある。土偶はハッキリ云って陰険で暗い。誰も関わりたくないのだろう。でも俺は正義感からなのか偽善なのか、何とか土偶を明るくさせようと、たくさん会話をした。けれども、そんな俺の努力も虚しく、未だに皆から相手にされない土偶と会話をするのは俺ぐらいだ。そして、土偶は会話すればするほど謎に満ちていた。


 それは、ある日のこと――。

 進路を決めるため、先生との面談を廊下で順番待ちをしていた時だった。
 次に呼ばれるのが里中、つまり俺で、最後が土偶という順番。

 放課後の静まり返った廊下には、俺と土偶しかいなかった。

 俺は、廊下にある水飲み場のコンクリートにもたれ、目の前には土偶が立っていたのだが、土偶の視線はさっきから俺の隣りに向けられている。もちろん俺の隣りには誰もいない。


「土偶、お前さっきから真剣な顔で何見てるんだ?」


 気になった俺がそう訊くと、土偶はギョロっとした大きい目を俺に向けた。


「里中に云うと、面談を受けずに、今すぐ走って帰ることになりそうだから云わない」


「それってどういう」


 意味? と訊き終わらないうちに、教室のドアが勢いよく開いた。
 面談を受けていた女子が教室から出て行き、先生が顔だけを出し、


「里中、いいぞ入れ」


 そう先生に促され、結局は何だったのか土偶に訊けず、俺は進路の面談を受けることになった。