それから、二年の歳月が流れた──。


 
まだ陽が昇ったばかりの早朝。

少し霧のかかった肌寒い空気の中、黎──ここで生活をするために、聖と李苑がつけてくれた名前だ──は、庭にある花壇の前に座り、丁寧に土を掘っていた。

「ええと……三十センチくらい掘って……と、肥料、肥料を入れて……」
 
手元にある小さな袋に入った肥料を、今掘ったばかりの穴に、ザラザラと流し込む。

「球根の上部が地表から十センチになるように土を入れる…」
 
少しばかり考え込んだ後、軽く何度も頷きながら土を入れ、球根を入れ、更に土をかけた。

「よーし、次っ」
 
今球根を植えたところの隣に、また穴を掘っていく。そういう作業を20回ほど繰り返すと、黎は立ち上がった。

「よーし、この花壇は終わりっ」
 
パンパンと洋服についた土を払い立ち上がると、すぐ目の前にあるリビングの窓を開けた。

「李苑ちゃーん、この花壇は終わったよーっ」
 
キッチンで朝食の準備をしている李苑に声をかける。

李苑は身重の体をゆっくりと黎の方へ向けた。

「あら、早いわね。もう終わったの?」

「うん。ちゃんと李苑ちゃんの言う通りにやったから大丈夫だと思うよ」