俺の憑いている毎熊奈緒は今、ベッドの枕に当り散らしている。

「あーもう! ムカつく! 超ムカつくー!」

 そんな様子を浮気相手の沢田俊孝は、タバコを吸いながら温かい目で見守っていた。

 ベッドは愛のエクササイズ中でもないのに大げさに弾み、ストレス発散中の奈緒を弾力で優しく受け止めている。

「何なの? ねえ、何なの? あたしって先輩よね? 年下だけど先輩よね?」

 沢田に同意を求める奈緒。

 暴れてローブの胸元がはだけているのに、本人は気付いてもいない。

 沢田はまだ長いタバコを奈緒の口元に持っていった。

 渋い顔をしながら一口吸い、ゆっくりと吐き出す。

「このタバコ、マズい」

「まったく、文句ばっかだな」

「そんな気分なの」

 そう吐き捨て枕に覆いかぶさるようにうつ伏せになった奈緒は、今度は手足をバタバタさせた。

 その様子があまりにも滑稽で、俺と同時に沢田も笑い出す。

 奈緒の怒りの原因は、今週入ってきた新入社員だ。