俺の憑いている毎熊奈緒は、風呂に浸かりながら左手をまじまじと見つめている。

 わざわざサロンに通って整えている自慢のネイルは、いつもより少しだけ華やかである。

 しかし、奈緒が見ているのはネイルではない。

 飾られていない薬指なのだ。

 ちゃぷっと音がして、奈緒の左手に少し日に焼けた手が重ねられた。

「爪、かわいいじゃん」

 沢田が親指で奈緒の薬指に触れた。

 奈緒から小さくため息が漏れる。

「もうすぐ友達の結婚式だから、それっぽくしてもらったの」

 淡いピンクのラメに、小さなラインストーンを流すように埋め込んだジェルネイル。

 美人の奈緒によく似合っている。

「へぇ、友達、ジューンブライドじゃん。雨降らなきゃいいね」

「大丈夫。その子、超~晴れ女だから」

 奈緒が手を湯に沈めると、またちゃぷっと軽い音がした。