その夜を境に、僕の日常はガラリと一変した。

 夜勤以外の日は必ず『サッド・マン・スリー』に行き、遅く迄飲み音楽に浸った。

 嬉しかったのは大晦日と正月。

 マーサは一日も休まず店を開けた。

 大晦日なんて、イヴの夜以上に盛り上がって、全然日本語の話せない米兵と肩を組みながら、『カントリー・ロード』を歌っちまう始末。

「たまにはカントリーも良いかもね」

 と、マーサ迄が古いカントリーナンバーをアカペラで歌った。

 十六で父を、十八で母を亡くした僕には、正月だからといって帰る場所も無かったから、マーサが店を開けてくれた事はすごく助かった。

 レナは、三が日だけ横浜の実家に帰っていたらしいが、福生に戻って来ると、殆ど毎晩のように『サッド・マン・スリー』に顔を出した。

 店で顔を合と、マーサが気を利かして、必ず席を隣同士にしてくれる。

 僕の全身からは、彼女に対する好きですオーラを出しまくっていたけれど、レナ自身が果たして僕の気持ちをどう察していたかとなると、遥か彼方の昔話となってしまった今、それは永遠の謎という事になる。