表通りから一本裏道に入った場所にその店は在った。

 レンガ色の三階建てで、建物の角に地下に降りる階段が在った。

 人が一人やっと通れる位の入口には、何時も何枚かの洒落たポスターが貼られている。店名を表す看板は見当たらない。よくよく注意して見ないと、そこに店が在る事など気付かずに通り過ぎてしまいそうだ。



 その店がライブハウスだと知ったのは、本当に偶然からであった。尤も、物語の始まりは、何時も偶然の出来事からなのだけど……。


 夜勤明けの疲れた身体に、十二月の早朝の風は、決して優しくない。工場脇の駐輪場から自分の自転車を引っ張り出し、力無く漕ぎ出す。

 国道を時折トラックが走って行く中、福生迄の道程を睡魔と闘いながら帰る。

 この街に住み始めて半年。

 耳をつんざく爆音とともに上空を飛び交う米軍の飛行機にも漸く慣れて来た。とは言え、夜勤明けにはやはり辛い。

 住んでるアパートからベースがすぐ近くなものだから、昼間の間はなかなか寝付けない。うとうと仕掛かると、決まってボロアパートを揺るがす位の爆音が鳴り響くからだ。

 

 米軍のハウスが立ち並ぶ中、僕は自分のアパートには帰らず、駅の方に向かった。

 どうせ眠れないなら、駅近くの珈琲ショップでモーニングを洒落込むのもいいだろうと思ったのだ。

 駅前の商店街を抜け、青梅線の線路沿いに在るその珈琲ショップを目指そうとしたが、道を間違えたのか店が見つからない。

 一度だけ偶然にその店の前を通り過ぎただけだったから、記憶が曖昧だったのだろう。

 そうこうしてるうちにレンガ色した建物の前に出た。

 ふと見ると、積み上げられたゴミの横に、一人の男が座り込込んでるのが目に入った。