一方、部屋に残された谷川は眼鏡をかけ呟いた。

「油断したな…」

今まで校内で眼鏡を外した事はなく、今日も部屋に1人だったのと誰もこんな場所に来ないだろうと思っていた。

「犬並の鼻だな」

コーヒーの香りがしたからと言った美月を思い出して思わず笑った。

美月の艶やかなストレートの黒髪は染めている生徒が多い中ではかえって目立つ。
まるで日本人形のような風貌が以前から目を惹いていた。

美月は気付かれてないと思ってるようだが、手を握った時に頬が紅潮したのを谷川は見逃さなかった。

「可愛いねぇ」

自分の小指を眺めて呟いた。





今日、谷川せんせの授業がある…。

昨日の今日で気まずいな。

美月はモヤモヤした気持ちを抱えたまま机に向かう。

『明日も来いよ』

谷川の言葉が頭から離れない。

あのせんせ、何だか怪しいよね?

カッコいいくせにダサ眼鏡で隠してるし、口調も授業中と違ってた。

「……さん」

後ろの席の子に背中を突かれ物思いから覚める。

顔を上げると谷川がこちらを見つめていて胸がドキッと高鳴る。