本のページを捲るかすかな音と貸し出しや返却のために交わされる控えめな声音が図書室の空間を占めていた。

カウンターの内側で美月は借りた本に目を落としつつ、いつもながらの静けさに欠伸を噛み殺し口元に手を当てた。

本好きだからと引き受けた委員だけど、学校の図書室なんて盛況な訳がない。

片手で数えられる程にしか利用者はおらず、この後訪れる人もいなさそうだ。

美月は一つ大きく伸びをして膝に置いていた本にしおりを挟み閉じた。

もう1人の当番である後輩に少し席を外す事を伝えて静かに図書室を出た。

「うーーん」

両手を上に思いきり伸ばしてもう一度伸びをする。


あっ!机の中にもう一冊本を入れっぱなしだったんだ。


特に急いで取りに行く必要もなかったけれど、体をほぐしがてら取りに行ってみようと教室に向かって歩きだした。



ん?

かすかにコーヒーの香りがする。

ふと鼻を掠めた香りに美月はある部屋の前で立ち止まった。