「俺は人間ではない。人間と人間ではない者の血が混ざっているからだ」


遡る事、数百年前の事である。既に桜の森も人里も存在していた。

現在との相違点は、春になれば毎日のように桜の森を訪れる人間がある事だけであろう。

人里に住むとある一人の男がいた。男の名前は連太郎(れんたろう)。

この里で生まれ育った男である。連太郎もまた、春になると桜の森へと歩を進めていた。

少し歩けば幼い子供が数人で遊ぶ姿が見られ、また少し歩けば桜の木の下に寝そべり、

昼寝をする者もいた。連太郎は特に何かをするという訳ではなく、

毎年咲き乱れる薄桃の花弁達の散る姿を見届けながら森の奥へと進んでいた。