燦々とふり注いでいる太陽の光を、鬱蒼と生い茂る緑樹たちが遮る。そのせいか否か、昼間も薄暗くまるで樹海のような森の中を、ふたつの影が歩いている。確かな目的をもち、それでも、ゆっくりとした足取りで。

「はあ……、なんで俺がこんな所に来なきゃならねえんだ」

木々の隙間から、ちらりと覗く斜光を忌々しそうに睨みつけながら、ひとりの青年がそう吐き捨てた。
端麗な容姿、闇をも呑み込んでしまいそうなほど深い暗黒色をした髪、それに反して透き通るように白い肌、どれをとっても浮世離れした見た目をした青年は、だらしなくならない程度に着崩された制服を、暑さのせいか、気だるそうにバサバサと揺らす。無防備に晒された首元を汗が妙に艶っぽく伝い落ち、シャツに淡く染みを残した。

「いまさら文句言っても遅いんじゃないかなー」

長め前髪を鬱陶しそうに掻き上げた黒髪の青年の隣で、男性とも女性ともとれる、中性的な美しい顔をした少年が、仄かに毒を含ませながら青年を諫めた。黒髪の青年とはうって変わって、笑みさえ浮かべている。

「今更も何も、昨日いきなり言われたんだ。言いたくても、言えねえだろ」

「ははっ、確かにそうかも。でも此処まで来ちゃったし、もうどうしようもないじゃん?」

それでもまだ納得がいかないとでも言うように不満を溢し続ける黒髪の青年に向かって、ふわりとした蜂蜜色の髪を揺らし、ゆったりとした動作で笑みを深めた美少年。あまりにも愉快そうに、まるで今回のことに不満は皆無だとでもいうその様子に、黒髪の青年は訝しげに目を細めた。

「そんな怖い顔しなくても、どうせすぐに帰れるから大丈夫だよ。ね、永遠」

「……そんなすぐに帰れるわけねえだろ、彼方。顔も知らねえ、魔術族だかを捜さなきゃならねえんだから」

「でもほら、顔はわかんなくても女の子ってのはわかってるし。血の薫りでは見分けられなくても、永遠なら、首筋にあるらしい刻印……見れるでしょ?」

「……あ?」

まるで未来を見透かしたような確信を含んだ発言に、永遠と呼ばれた青年は更に眉間の皺を深くしたが。彼方と呼ばれた美少年のからかいを含ませた言葉と、可笑しそうに細められた色素の薄い瞳を向けられ、青年は気の抜けた声と共に本日一番の重い溜め息をつくはめとなった。