拝啓

大恩ある御先生、日々如何お過ごしでしょうか。こちらは紫陽花の花が見事に咲き乱れるかと思えば、それを皮切りに梅雨の湿気が体にじとりと来ます。

しかし、そちらの御境遇を考えれば、これはいささか皮肉が過ぎる話でございますが、私はこの、梅雨時というものに少しも不快感を感じないのです。体が汗ばみ、黴と雨に噎せ返るこの時期が来ると、私の中にはとある回想が湧き満ちて来るのです。

それは、湿度に塗れべとべとに溶けてしまいそうなほどに惹かれた、恋の慕情です。

無論、以前にはそんな感情は毛頭ございませんでした。しかし、とある切っ掛けが私の人生を大きく変えました。

私がこうして先生をお慕い出来るのも、今現在の私に至った訳も全てはそれが始まりなのです。

そして、それは、丁度三年前のことでした。