心地よい春の暖かさを感じられるようになった4月のはじめ。
私、成瀬舞波は、学校からほど近い都内のアパートの一室にいた。

実家から、私の通う『私立明城学院』まで、片道2時間30分。
朝は3時起きで、4時には家をでないと間に合わない。帰りは、5時の列車に乗らないと帰れない。
勿論、友達と遊ぶ時間なんかある訳がなくて......
そんな生活に耐えきれず、今年の4月から一人暮らしを始める事になったのだ。

「これで、放課後に友達と遊べる。やっと高校生活を充実出来そう!!」
私は、荷物を片付けながら、これからの学校生活を思い浮かべ、ニヤニヤしていた。

あっ!お隣りに挨拶に行った方が良いよね。
片付けも終わったので、ここにくる前に買った、人気だというプリンを持って外に出た。

確か、右隣は空き家だから、左隣に挨拶に行こう。

表札には、『安東』と書いてある。私の学校の体育教師と同じ名字だ。まぁ、安東って名字の人はたくさんいると思うけど。

―ピンポーン
......。
インターホンを押したけど、誰も出てこない。

留守かな?
一度、自分の部屋に戻ろうとした時、ガチャリと扉が開いた。
「あっ......初めまして。今日、隣に引っ越して来ました。広瀬舞波と申します!これから、よろしくお願い致します!!」と一気に言って頭を下げた。

「広瀬。。。。。。?」頭上から聞き慣れた低音が聞こえた。恐る恐る顔をあげると、そこにはさっき言っていた、学校の体育教師らしき人が......
「安東先生?」

でも、声は確かに安東先生だけど、学校の時の先生はいつも綺麗なジャージを来ていて、明るくて優しくて、爽やかで......
なのに今、目の前にいる人は髪はボサボサでヨレヨレの服を着ていて、無精髭も生えてるし、煙草臭い。

本当に安東先生??と疑いの目で見ていると、
「何か文句あるみたいだな?成瀬?」と笑顔で言われた。目が笑っていませんよっ!!

ブンブンっ!と首を横に振ると、先生はフッと意地悪そうに笑って、まぁ。これからよろしくな。と言った。

私は、爽やかで優しい顔の裏に隠した先生の秘密を秘密を知ってしまった。
そして今日から、先生と私のドキドキなお隣りさん生活は始まったのだ。