部屋には紅茶の甘い香りが流れている。

少女に「もう一杯」とティーカップを差し出すと、少女はカチャリと音をたていそいそと紅茶を注ぐ。

まるで、自分の部屋のような扱いだ。
この屋敷の主である男を差し置いて、有意義に紅茶なんかを飲む若い男に男は怒りを覚える。
逆に怒りを覚えない方がおかしいだろう。

怒り狂う男は、二人を睨み付けた。
その行為に気付いた少女はびくっと体を震わせると、様子を疑いながら若い男の後ろにそっと隠れた。



『大丈夫だよ、アレス』



少女、アレスをあやすように若い男は少女のカールの巻いた髪に手をかけると、そこにそっと唇で優しく唇で触れた。
無愛想な顔を崩すこともなく、アレスは小さく頷いた。

男は笑顔を絶やすことなく、横目に見ながら笑っている。

落ち着いている若い男はティーカップをテーブルの上に置くと、やっとの思いで立ち上がる。

頭にかぶっていた黒いハットの帽子を手で取ると、胸に当て深々とお辞儀をした。



『失礼しました、旦那様。いつもならば、ティータイムの時間ですので。…あ、クッキーでも食べます?』



若い男は帽子を整え、またかぶりなおした。
そのまま、テーブルに手をもっていくと皿に盛られているクッキーに手をつけ、男の方に差し出した。
その状況からも、若い男の気まぐれさが窺える。


「いるわけなかろう」