春を迎え、四月生まれのあたしは一つ歳を取った。


「ねぇ、コーちゃ……」

「幸大」

「……幸大……」

未だ呼び慣れぬのは愛しき婚約者の名。

生まれてこのかた19年、呼び続けて来た愛称。
身についてしまった呼び名は、そう簡単に直せやしない。


「“あの時”だけだな、友里が俺の名前をスムーズに呼べるのは」

「なっ……!!」

不意に引き寄せられ、見せられたのは意地悪な微笑。

囁かれた台詞もちょっと意地悪で、あたしは言葉に詰まる。