名前も知らぬ色とりどりの熱帯魚が、水槽の中を気持ち良さそうに泳いでいる。


あなたは、湖の水底に降り立ったような錯覚に囚われながら、

水草の植わったたくさんの水槽を眺めつつ、案内された席についた。


昔話に出てくる茶店のような、木づくりのテーブルと長椅子だった。

テーブルの上に置かれた丸いグラスの中には、
長いヒレをユラユラさせた
花のように美しい青い魚が一匹いる。


古い日本家屋を思わせる店内にはかすかに、
ブゥ……ンという、
低いうなりが響いていて

それは

無数に乱立した水槽の、
無数の濾過装置のモーター音であるのだが、

あなたには何の音なのかわからない。