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咲重郎は、大変満足して床についていた。

石段の上にあった寺は、思っていたよりもずっと立派で大きく、和尚も、女が言っていた通り、優しく、気前がよく、人柄の良い和尚であった。

黄昏時、疲労困憊して寺を訪れた咲重郎を和尚は手厚くもてなし、食事を与え、温かい風呂に入れ、快く一晩の宿を提供してくれた。

躰も暖まり、腹も膨れ、咲重郎は正に夢心地で寝返りを打った。

ふと、隣におしづがいてくれたら…と考え、急いで取り消した。

色白の肌を深紅に染め上げる赤とそれに溺れたように横たわるおしづが、浮かんでは消えて行く。

(咲重郎さんが一緒なら…悔いなどありませぬ。)

はにかんだ笑顔が浮かぶ。

一瞬にして、全身が氷つく。

咲重郎は、眠れなくなってしまった。