「あっ——環ちゃん、お帰り」


私の家は……


「ただ今、お母さん。お父さんは?」

「今日も帰るのが遅いみたいのよ…」



不況の荒波とやらにばっちりと巻込まれていた。習字から帰って来た私は半ばヘトヘトになっていた。チビさんのお守り(?)をして、且つはー君と同じ空間に居るという苦痛により泣きそうになっていた。



「さっき新聞で見たけど、木城君は凄いわね〜。陸上の大会で大活躍したそうよ?」

「——らしいね。ご飯出来たら呼んで?着替えて来る」



はー君…そんなこと、一言も言っていなかった。やっぱり今でも陸上頑張っているんだね。

今思えば、小学校の時から足が速くて有名だった。しかも顔も格好良くて、勉強も出来て、スポーツまで出来るなんて最早少女漫画の登場人物か。


…だけど、その実力をひけらかさないで明るく。誰とも何の隔たりもなく付き合っていた、言わば「人気者」だ。

中学の時、はー君は受験をした。何でも本人は友達と離れるのが嫌で受験なんてしたくなかったらしいがご両親が強行突破したらしい。




「——やばっ、習字に学校のリボン置いて来ちゃった…」


鏡台の前で着替えるて居るとふとダサいセーラー服のリボンタイが無いのに気がついた。
ウチの高校の制服は恐ろしくダサいことで有名だ——ましてやはー君が通っている「大薙」のようにオシャレで格好良いブレザーじゃない。



「…はぁ……ここまで"違う"と、頭痛い」


別に"一緒"になりたい、とは思わない。だが——ここまで嫉妬の念が大きいと自分がまるで化け物みたいだ。

墨で汚れた指を意味も無く掲げ上げみても何も変わらない。



(まあ…リボンタイは師匠に預かってもらおう、別に必要じゃないし)


時計を見れば、針はすでに8時30分を指していた。