私は賭けすら捨てた。



(……きっと、忘れられる運命なのだろうか)



『……ねえ、それでも私は覚えていても良いのかな?』






**







「……あれっ、」


――俺は夢を見た。



視界には、朝日に照られた天井があった。

なんて目覚めの悪い朝なんだ。


木城葉澄は頭を抱えながら、上体を起こした。



(……環ちゃんの手がすり抜け、俺にさよならを言うシーンで目覚めるなんて)



なんだか、奇妙で。
だけれど、怖くて。



この手に環ちゃんを捕まえることができなかった。

あの手を掴むことができなかった。



……どんどんどんどん、考えが悪い方向にしか向かない。




「……今日こそ、環ちゃんの家に」



そう決心した、朝食をとるためにリビングに下りていった。


今日は土曜日で生憎部活も休みの日であった。
こんな日を利用しないことはない。



(……会わなきゃ、理由はないけれど)