『……また給料が下がった』

重々しい空気に耳を澄ますことしかできなかった。

『……しょうがないわ。どこも現状は一緒よ』

『…また一人、辞めさせられた』

『…時間の問題かもしれない』




与えられた時間のなかでどうやって生きるかなんて――





(わからないわ)






少女は古い家の中で立ち尽くしながら、唇をかみ締めた。

負けないと念じながらも、一体何にと自問自答するばかり。

頭に掠めた人物は何も悪いことをしてないと、消し去ろうとする。

だが、どうしても脳裏に焼き付いて消えてくれない。



(あの人は私の中で大きな存在になりすぎた)



考えなくても目に浮かぶ。

優しいあの人に私は何かしてあげただろうか。

優しいあの人はいつも私にやさしくしてくれた。

反芻気持ちを殺すように、現実が追いついてくる。

まるで無駄な追いかけっこをしているかのように。






「……また、か」


環は天気の良い青空の下、かかってきた電話の後につぶやいてしまった。

部室の掲示板に張り出された名前と電話から流れた名前に目が奪われる。




友人の伊藤麻衣も関心したように声をあげた。





「また、木城葉澄か~!凄いね!また上位の賞に食い込んでいる…」