私立大薙高等学校に通う木城葉澄は学校帰りに一人の女性を見かけた。


道路の向こう側だが、スーパーのレジで忙しく働いている中年女性。大好きな女の子の親なんだと解る、真っ黒な髪とやや釣り目の黒い瞳。



(環ちゃんのお母さん…)


俺は現在、加賀美や田島達とファーストフード店に行こうとしているところだ。

相変わらず環ちゃんのお母さんは笑顔が似合って、明るい女性というのはよく知っている。



「どうした葉澄?」

加賀美に声をかけられたので、曖昧に誤摩化していると——道路の向こう側なのにも関わらず、環ちゃんのお母さんは完全に俺だと解って笑いながら頭を下げていた。


そして、「いつも環をありがとう」と言っているようにも見えたのだ。俺の気のせいかもしれないが、こちらも軽く頭を下げたのだった。




(——あれは、)

ただ一人加賀美だけはその女性に気がついており、苦虫を潰したような表情をしていた。













「——で、何の用なのさ」





非常に不愉快だ。環は胸中で呟きながら、家の前で仁王立ちをする男に苛立を感じていた。いや、寧ろ全身で嫌悪を現したい。




「加賀美君、」

「つれねぇー女。だから、餓鬼の頃から周りに疎まれるんだっつうのオタク」

「相も変わらず毒舌なのか悪口なのか判別つかないんだけど」



この男…「加賀美 航」も小学生からの(一応)友人である。ただ、彼の場合は環を虐げていたのに近い存在だ。

というか、今更何の用だ。罰ゲームだと思ったが、そんな雰囲気じゃない。



「バーカ、悪口だっつうの」