『行っておいでアレクシス。騎士として恥じぬように』

 騎士として。

 城へ奉公に上がったばかりの頃。
 少年のアレクシスに騎士団から与えられたのは、天蓋付きの寝台や美しい羽布団ではなく、薄汚れた毛布と硬い砂枕、その身を守り導くための剣と盾、鎧ぐらいなものだった。
 家から持参した少々の金貨や真新しい衣類が、ココでは場違い甚だしいと同時に、良くも悪くも命の保険になっていた。
 下級の騎士の待遇は悲惨きわまりなく、劣悪な環境がそこにあった。

 夜になって案内された部屋は、四方を石積みの壁が覆い尽くし、獣脂を使ったランプが薄暗い部屋を照らしている。
 アレクシスと同じ頃の少年達がひしめきあい、飢えた目をぎらつかせていた。
「おい、新入り。ちょっとこっちにこいよ」
 奥にひときわ大きい体格の若者がいた。
 年も一歳か二歳違う程度。
 やせ細った見習い騎士達をしもべのように左右に並べ、殻になった酒樽の上に座って偉そうに胸を張っていた。命じられるまま近づいたアレクシスの顔を見て、小馬鹿にするような表情をする。
 樽から飛び降り、近づいた。
 汗と垢と泥の交じった悪臭が鼻孔を貫く。
「け、女みたいなナリで俺達と肩を並べられると思ってんのか?」
 どん、と肩を押された。
 背後に回る子分達。
「けけ、女みたいに叫んでみるか?」
 聡いアレクシスには、これがどういう意味を含んでいるのかすぐさま察した。

 多くの鶏を狭い小屋に入れておくと、一番強い鶏は次に強い鶏を虐め、虐められた鶏はその下をいびる。そうして連鎖反応は最後の弱い鶏にまでたどり着き、最後の一羽は死んでしまう。

 これは、それによく似ている。

「それは君たち流の冗談か? ……なわけがないか」
 アレクシスを取り囲んだ少年達は、飢えた目をしていた。
 まさに腹が減っているのだろうが、狙われる理由は他に二つほど思いあたる。