<流衣>



─聞きたい言葉は、昔から1つだけ。





「流衣くん…っ」


朝。
バスケの自主練の途中。
誰もいない体育館。



そんな空間に俺と…中学ん時クラスが一緒だった奴2人だけ。


どんなに鈍くても、これから何が起きるかなんて分かる。



「はよっ!どうした?」


だけど、朝からしんみりした空気はやだし、笑って気付かないフリ。
…こうゆうの、ずりぃのかな。


「あの…ね…っ、ずっと…!!」


こんな時、ナツなら…音弥ならどうするんだろう、なんて考えても仕方ない。…俺は、ストレートにきた言葉にはストレートにしか返せないから。紫苑に笑われるぐらい不器用な言葉でしか返してあげれない。



「…ごめん」

「…そ…っか」

「でも、さんきゅ…な?」



切なげに微笑む相手の表情に、悲しくなる。そんな顔させんのなんか、嫌なのに。なんて言ったら良いか分かんねえの。



「流衣くんって…好きな人いるの?」

「……いる」

「どんな人?」



投げたボールはバスケットゴールに吸い込まれるように弧を描く。



「好きになるのも許してくれねえのに、…嫌いにもさせてくれねえ奴」



『──流衣、ごめん』


頭の中で何度も繰り返されるその言葉は目を熱くした。