ひとつじゃない

 本当の心そんなものいらない

 君がいるこの時間が私の全て

 二つの心は君の証明

 I hug it forever, and do not grieve 

 I delete a past, and believe in now



 ステージを終えても、エリカは水を飲まない。

熱しきった体が、冷めていくのが嫌だった。

ソファに座った途端に汗が噴出していった。

「今日のステージどうだった?」

噴出す汗が心地よくて、ステージ終わりのエリカはいつも笑顔だった。

「うん。良かったよ。」

そう言うと、タオルをエリカに渡した。

「お腹空いたでしょ?大好きなサラダ用意してあるよ。」

リュックから出された弁当箱には、色鮮やかなサラダがあった。

「わあ、美味しそうだね。ありがとう。」

エリカは汗を拭くのも忘れ、サラダを口に運んだ。

「今日は特別仕様よ。唐辛子入りドレッシングにキノコのサラダ。」

余程お腹空いていたのか、一心不乱に食べていた。

「おいしい。唐辛子が効いているね。」

そう言いながら、辛い物好きのエリカは、フォークを止めずに食べている。

エリカをじっと見つめた。そして、汗まみれの背中を拭いてあげた。

「汗拭かなきゃね。汗を…」

ステージ終わりの控え室。エリカはマネージャーすら近づけない。

二人だけ…そう誰も近づけない。



月は古来幾つもの顔を持つものの例えに使われる。

月の女神は幾つも顔を持ち、幾つも名前を持っていた。

…私達にはお似合いね…その氷の微笑みに気づかないエリカはサラダを食べ終え、

空腹をその月が満たしていった。

「今日のことは内緒よ。マネージャーうるさいから。」

空腹を満たしたエリカは満面の笑みを浮かべた。

身体は唐辛子効果も加わり、熱く赤みを帯びていた。

汗はいつも以上に噴出し、滴り落ちていた。

…さようなら、理恵…