ひと眠りして目が覚めた時、風邪の熱は下がりすっかり楽になりました。
「ぼう、風邪は治ったんかいの」
 僕はさっきの自分のあまりに愚かな言葉が恥ずかしくて、おばあちゃんの顔をまともに見られませんでした。目を合わせないようにしながら、皿の上のおにぎりにかぶりつきました。
「ぼう、おばばのおにぎりはうめえけ」
「…」
 真っ白なおにぎりの中には塩昆布や梅干がどっさり入っていました。
 それは少ししょっぱくて、たくさんの愛情がこもった世界一のおいしさでした。
「みんなと祭りへ行くんやろ」
「うん」
 おばあちゃんは新品の五百円札を僕の手に握らせてくれました。 
 それから僕は何も言わず、逃げるように学校の体育館の方向へ走り出したのです。
 盆踊りの笛と太鼓の音色が神社の森の中をこだましています。
 初めて聞く祭り囃子なのに何故か懐かしい響きに思えました。
 祭りの日は村の外へ働きに出ていた人たちが帰って来たらしく、普段よりも随分とにぎやかでした。
 外国のネズミのマンガは腹がねじれるくらいに可笑しかったです。最年少のトシがもう一回観たいと駄々をこねて姉さん先生を困らせたっけ。
 怖い映画には青白い顔の幽霊が何人も出てきました。ガキ大将のゲンちゃんでさえ、映画のあまりの恐ろしさにひとりでトイレに行けなくなって、体育館の隅でちびってしまったとか…。本当は僕も学校のトイレが不気味でずっとおしっこを我慢していたのです。
 それでも映画が終わって、みんなで手をつないで神社へ歩き出したら、途端にいつもの陽気な気持ちになりました。
 ソースと青のりのいっぱい付いたお好み焼き、頬っぺたが落っこちるほど冷たくて甘いアイスキャンデー。ブリキのロボットや銀玉ピストル、ビニール製の青い目のお人形。
 祭りの夜のけいこさんとひさよさんは浴衣に下駄履きでおしゃれをしていました。朝顔と喋々の模様がよく似合っていて、それもこれもすべては真夏の夜の幻みたいでした。