山奥の曲がりくねった道にはいつも眩しい太陽が照りつけていました。
 青空、入道雲、上り坂、下り坂、小川、堤防、やまゆり、ひるがお、野良犬、セミ、カエル、トカゲ、きゅうり、スイカ、稲穂…。
 そんな景色の中を田舎のバスが息を切らして走ります。ヨイショ、コラショ、ドッコイショとデコボコ道を必死に駆け抜けます。
 開け放ったバスの窓から生温い南風が舞い込み、シャツの袖をなびかせていました。
バスの乗客は大きな荷物を抱えた行商のおばさんとチョビヒゲのおじいさん、そして僕の三人だけでした。
 他の乗客と運転手のおじさんは顔見知りらしく、時折大声で話をしていました。
 運転手のおじさんがバスの鏡でチラチラと珍しそうに僕を見ています。
「ボク、どこまで行くんや」
「終点までです」
「ひとりで大丈夫か」
「終点のバス停でおばあちゃんが待っていてくれるはずなのです」
「おばあちゃんの家に行くんか。それは楽しみやな。終点までは遠いけど、もう少しの辛抱じゃ」
「はい」
 一番後ろの席で二時間ほど左右に揺らさられていると、バスは砂ぼこりの舞う空き地に到着しました。やっと終点です。