「高橋、はいコレ」


「……何ですか?」



退院を明日に控えた心の元に、いつものように様子を見に行くと。

僕の姿を視界に捉えた心は、僕に何の説明もなく林檎を差し出した。



意味が分からず首を傾げると


「剥いて。
上手でしょ?メス裁き」



果物ナイフも取り出して来て僕に差し出す。




「メス裁きって……」


「人切れるんだから、林檎位剥けるでしょ?」


……それとコレとは違う気がする。


そう言い返そうと思ったが、ぐっと飲み込んで、椅子に座るとナイフを手に取った。



「……準備は進んでいるみたいですね」




林檎を剥きながら、退院準備を着々と進めている心に話し掛ける。


「まぁねー。
多分もう入院する事は無いと思うからこれで最後だろうし」


「……良かったですね」




あれから抜け出す事も無く、検査も無事に終わって定期的に検査をちゃんと受けに来る、と約束して退院する事を許された。



発作ももう起こらないだろうし、普通の生活は何の支障も無いだろう。


「はい、剥けましたよ」



剥いた林檎を傍に置かれていた皿に入れれば、僕に背を向けていた心は嬉しそうにベットに座って林檎を口へと運ぶ。