11月29日(金)

俺は仕事が終わり自宅へと車を走らせていた。

時刻はすでに10時を回っている。

高橋祐介、23歳。

地元群馬の大学を卒業し、現在東証一部上場企業の保険会社に就職して2年目になる。
 
留年も浪人もすることなく、客観的に見れば順調といえるだろう。
 
しかし、俺は死を望んでいた。
 
その事に明確な理由など無い。

いや、良介に限らず日本において年間3万人いる自殺者の中で、社会に認められるほどの理由を持つ者などいったい何人いるだろう。

あえて理由をあげるとすれば、生きる事に希望が持てず、過ぎていく時間を苦痛に感じていた。

「ただいま」

自宅に着くと、母にそう告げて自分の部屋にこもる。
 
鞄を放り投げ、テレビをつけて、パソコンを起動させる。
 
その間、たった5秒。
 
いつもの動作だった。
 
テレビでは低俗なバラエティ番組やドラマ、ニュースが放送されていた。
 
どうやら今日、群馬の山奥で集団自殺があったらしい。
 
ネットで知り合った男女4人が密閉された車内に練炭を置き集団自殺。

今やありふれたニュースだ。
 
その中の一人、斉藤徹と表示された男は俺と同じ23歳だった。

レポーターの沈痛面持ちとは対照的に俺はある種の憧れを感じていた。
 
うらやましいとも思っていた。