左足を引きずりながら
リビングを出ていく先生が
戸口で一度 振り返る



「だけどさ、イチ
もう一生
お前の帰る場所は
オレのところだけだよ?


それ以外の場所がある方が
おかしい話だろう?」






 バタンッ



リビングのドアの閉まる音が
スイッチだったかのように
両目からダァーっと
涙が流れた




青波がいるのに
私は母親なのに
ケンカしちゃダメなのに


やっぱり私は最低の母親だ


私なんかが
ちゃんと母親をやれるわけ
ないんだ



………だけど
精一杯がんばってるのに
なんで…………?



………ペチ



涙で濡れる頬に
小さな手のひらが
ぴったり張りついた



「………青波?」



青波が私の肩を
グワシっと掴んで
よじ登るように
手を伸ばし



ペチって
頬に手のひらを押し付ける



「……………?」



青波の怒ってるような
困ってるような
複雑な表情を見て



……………ああ、そうか


手のひらを
押し付けてるんじゃない


涙を拭いてくれてるんだ



青波は一生懸命
手のひらを伸ばし
ペチ、ペチと
濡れた頬に張り付ける



「………ごめんね、青波
ごめんねぇ……
子供に涙……拭かせたら
……ダメじゃんねぇ?」




青波を抱き上げ
ぎゅうーってする



ひとりぼっちじゃない



帰る場所がないなんて
逃げる場所がないなんて
どうして考えてしまうのか



私こそが揺るぎない
青波の帰る場所に
ならなききゃいけないのに