偶然にも、私と仁の帰る方向は同じだった。
その事に気づいたのは、仁の後ろを歩いてる時だった。見慣れた景色に、まさかと思っただけで仁には訊かなかった。
 その距離を無言で歩いていた私は、意を決し仁の隣に並んでみた。


『あのさ…』


「ん?」


『さっき柚樹の言ってること半分も分からないって言ってたけど、何の話ししてたの?』


「ああ、数式の解き方」


『…数式の、解き方?』


「半分もわかんねぇ。」


『それを…ずっと聞いてたの? てか、半分は解るんだ』


「しょうがねぇだろ、お前は話に入る気すらなさそうだったし、なんか妙に暗いし。俺から話しかける訳にもいかねぇし…」


『ごめん。』


「何か悩んでんなら話し聞くけど?」


『え?』


「聞くだけだぞ? アドバイスとかは出来ないから…」


『ありがとう』


ぶっきらぼうな言い方だけど、心配してくれることがやっぱり嬉しかった。それと同時に、私は仁の何なんだろう?なんて想いが出始めた。


『あ、私こっちだから。』


十字路に出た所で左に曲がると、少し進んで振り返った。そこには、襟足が少し長い普通の男の子の背中があった。