それから一週間が経った。
コトブキ堂が開店すると同時に、一斉に店の電話が鳴った。
内容は全て同じだった。

『この店の店長が人殺しだとネット書かれていたが本当か』
『20年前の事件の犯人だ』

慌てたのはイトウで、電話の対応に追われた総務の女性社員が、たまりかねて言った。
コトブキ堂のウェブサイトにも、同様の書き込みが見つかった。

「なんでこんな書き込みが……!? 店長、どういうことですか!!」
「どういう意味だ!?」
「聞きたいのはこっちです!!」

イトウと女性社員のやり取りを眺めつつ、北野森は売り場に出た。

「北野森、おはよう」
「おはようございます、ウエサトさん」
「聞いたか? レジでもひどいんだ、人殺しのやってる店で金取っていいのかだのなんだの」
「ひどいですね……。なにかあったんですか?」
「それがわかんねーんだよ……」

店内の混乱に手応えを感じる。
次の一手を打つタイミングだ。

バイトやパート社員が、客の乱暴な態度の対応に疲れて、次々と早退している。
その混乱に乗じて、北野森も正午には店を出た。