社会へ出て仕事をするようになり、人と分かり合うことほど難しいものはないと思った。



ほんの些細な行き違いが衝突を生んだり、…時に意に介さないことで涙したこともある。



ただ他部署と比較して圧倒的に男性社員が多い試作部で、精神面を鍛えられたとも思う。



元来の何とかなるだろう精神にプラスして、これまでの失敗と経験が活かせる場だもの。



「――え?今夜さっそく、なの…?」


「そっ。ジェンがOKらしいよ」


あのあと仕事を終えてタクシーで滞在先のホテルへ戻る中、修平の言葉に目を丸くした。



というのも本社内にある研究室で彼と話していた、大神チーフからの提案が発端である。



「Wデートしたい」のお誘いは素直に“今度”と捉えて、まさか当日と想像する筈ない。



もちろん絶品の店を押さえた、と連絡を下さった時点ですでに予約完了していたチーフ。


「大神さん…、フットワーク軽いよね」


「フッ、抜かりないな」


私はようやく見慣れたシカゴの街並みを、車外を眺めつつ言った彼が向き直り破顔する。


「あっ…!そういえば、ジェンさんって大神さんの彼女さんなの?」


「ああ、そうだよ――ジェン、…ジェニファーと大神は相当付き合いと思う。

コッチに居た頃は3人でよく飲みに行っていたし、自宅パーティーに招待されたりね。

あれは何時だったかな――確かジェンの誕生日で、大神がウルフ姿に仮装して現れてさ、」


今さらだけれど重要な質問を投げ掛ければ、彼はひとつ頷きどこか懐かしみながら言う。



「どうした、真帆?」


「…羨ましいな、」


「ん、何が?」


「――修平がシカゴで生活した2年間を知ってるから…その、単純に羨ましいなって」


その話を止めて私の顔を覗きこんで来る修平に対して、俯き加減で呟いてしまった本音。