本社から帰国したと同時に役員となった修平だから、現場に立ち入るのは久々だけれど。



支社とは比較も出来ない設備と機材の揃った室内で、何の迷いも無く作業を始めた彼。



何のブランクも感じさせない圧巻の手捌きに、取り巻きと化した私は息を呑むばかり。



試作部に居ればソレなりの経験と知識は備わるけれど、修平はそういう問題では無い。



私たちが今後どれほど努力しようとも、絶対に得られない“何か”を備えているのだ。




凛とした姿を目の当たりにして感じるのは、彼は根っからの研究者肌だという事…――



どれほど見ていても飽きないと言わんばかりに、喰い入るように眺めていたところ。



ポンポンと肩を叩かれた私は、その方へと慌てて向き直り意識を一気に取り戻した。



「真帆ちゃん悪いけど、コレをエドワードに渡してくれる?

この時間に出社してコッチに顔出すからさ、キャッチして欲しいんだ」


「はい、かしこまりました」


そう言って大神チーフから説明交じりに差し出されたのは、一冊のA4ファイル。



メールが主流だけれど、業務上の書類の取り交わしはどの地でも未だにあるようだ。



「あの、失礼ですが、General Manager(部長)で宜しいですね?」


丁重に受け取るとWEB会議で何度か面識のある、エドワード氏かと念を押しで尋ねれば。



「うん、アノ厳(いか)ついオジさん」


「アハハ…、かしこまりました」


此処は苦笑すらして良いものか迷ったけれど、大神チーフの発言はやはり自由らしい。



だけれどソレが許されるのも、チーフならびにマネージャーを兼任する彼だからだろう。



ひとつ礼をしてその場を動くと、すっかり夢中の修平を尻目に部屋を静かに退出した…。