予兆もない異変が起こったのは、登校時だった。


 “放課後。武道場裏”


 靴箱にこの手紙が入っていた。めくって読めた字に、あたしは一人眉をひそめる。



「何、これ」


「どうしたの一香…。え、何これ」



 隣にいたあーちゃんは、ひょいとあたしの手からその手紙――とは言ってもルーズリーフの切れ端――を取り上げて、一つ。


 そんなことを言われても、あたしが聞きたい側なのだけれど。



「……だめよ一香」


「へ?」



 あーちゃんの目はあたしを、見ていない。


 どこか悩ましい表情に気付いて、だけどあたしは返す。



「何で?」



 分かっている。分かっては、いるのだけど。だけど止められたくなかった。



「あんた、王子と付き合ってるんだから…一応、危険な身の上なのよ」


「ほっ他の誰にも教えてないよ」



 心配無い――そう言いたかったのだけど、その前に被せられた言葉には流石に言い返す言葉が見つからなくて。