そうこうして氷室君に入場料を出してもらい、中に入る。


 そのそばからあたしは、子供のようにきゃっきゃと騒いでいた。



「マンボウ可愛いーっ!」


「……どこが」



 興奮したあたしに、投げつけられた一つの質問。あたしは一瞬で平静に返る。



「え…どこがって」



 マンボウが可愛い。それはあたしの中では、一種の常識のようなもので、具体的に答えられる内容はない。


 どこが、どこがよ。必死に考えるほどに、正体不明の情けなさ。



「ええと、全体的、に?」



 答えになっていないことは分かっていた。全体的に、とは何ぞや。



「疑問形かよ」



 交わす一言一言。全部が幸せな記憶として、刻み込まれていく。


 味わいかみ締める。


 自然と顔がほころび、表情が柔らかくなっていくあたし。


 氷室君も、いつかはそうなってくれたらいいな。


 ちっぽけなようで、壮大な願望。