コンコン


事務所の扉の前に黒い影が現れ、扉が叩かれた。



「来たか…」



私達は、互いに頷き合ってその扉を――いや、運命の扉かもしれない――開いた。





「春岡雫様でございますか?」



「えぇ、其方は?」



黒い燕尾服を身に纏う老人は、少し困ったように頭を掻いた。
彼は、きっと違う。
困った表情と共に、彼からは困惑という感情が見えた。
いや…油断させる罠か…。





「白井と申します。皆様をお迎えにあがるようにと、主人に申し遣って参りました。外に車がありますので、詳しいことは車内でご説明致します」