”夏”という夢から
起こされたような気分だった。

季節が移り変わるのは本当に早くて、
気がつけばもう秋。
山は真っ赤に染まって、夕焼けの一番美しい季節になる。


しかし、俺は秋が嫌いだ。
理由はまぁ色々あるが、
特に、今年は。


「もー無理!!」


そう叫んで、俺はペンを放り投げた。
まだ一問も解かれていない問題集が
どこか悲しげに見える。
……ごめん、俺に買われたばっかりに。

心の中で小さく謝って、
俺はおもむろにこたつに埋もれた。
気温は温暖化だ何だか言っても下がる一方で、
寒いとじんましんが出る俺には辛い。


「ウルサイ!!気が散る!!」


そして、俺の目の前には
季節も関係なくやっぱり傍にいる……永遠子。
彼女のこんな怒声も、もう慣れた。

毎年この時期は電気代節約のため、
よくお互いの家に入り浸っているのだ。

”受験”という危機を迎えても
その制度は相変わらずで
今日も俺は永遠子と共に勉強に明け暮れていた。


受験も寒いのも嫌だけれど、
永遠子と一緒に入れるのはまんざらでもない。
――中々集中は出来ないが。


「じゃー自分の家でやりゃあいいじゃん。」


本当はこんなことは全く思っていないのに
俺の捻くれた口は、こんな言葉ばかり
サラサラと紡ぎだされる。
これで永遠子が帰るだなんて言い出したら
きっと俺は本気で彼女を引きとめてしまうだろう。

……本当に格好悪い。

永遠子の返事に内心ドキドキしていると
予想外にも彼女は首を横に振った。


「それは……やだ。一人じゃ集中できない。」
「言ってることが矛盾してますけどー。」
「うるさいなぁ、もう!やってるんだから黙ってて!」


口を尖らせ、そう捲し立てた永遠子は
再び問題集に目を落とした。
握りしめたシャープペンシルは、一向に
動く気配を見せない。

そう…っと彼女の問題集を覗くと
俺と同じくほぼ白紙だった。
それでも懸命に解こうとしている永遠子に
俺は小さく微笑んで、渋々ペンを握る。

けれどさっきの永遠子の言葉が何だか嬉しくて、
俺は下を向いてニヤケたまま
問題をただ見つめていた。