白いタイル張りの廊下を
前から歩いてくる人物に
菖蒲は顔をしかめた。

「何しに来たの」

娘の冷たい声に暁生は
肩を竦めた。

「孫の見舞いくらい良いだろう」

「…わたしの娘だわ」

「わたしの孫でもある」

暁生の浮かべる微笑にも
菖蒲は表情を崩さない。

「あなたとはもう親子でも
なんでもないつもりよ」

静かな病院の廊下に菖蒲の
はっきりした声が響く。

「まだわたしを苦しめる気?」

暁生は表情を曇らせると、
軽く溜め息を吐いた。

「わたしも苦しんでるよ。
お前の好きにさせることが
一番良いと思ってきた。だが
潰すつもりで始めたわたしの
会社も従業員のことを考えれば
そうもいかなくなったんだろ?」

ずっと睨むように暁生を見ていた
目を菖蒲は逸らして伏せた。

「わたしの過去は取り戻せないが
おまえの未来はどうにでも
作っていけるんだ、そんな疲れた
顔をしているなら会社はわたしが
また引き継いでもいい」

眉を寄せていた菖蒲は
深い息を吐く。