どれくらいの時間そうし
ていたのか、顔を上げた
おばあさんを夕日が照ら
した。

それを待っていたかのよ
うに先ほどのキジが、ど
こからともなくやってく
る。

口には、おばあさんが落
としてしまったキンカン
をくわえている。

おばあさんは何度も何度
も大きく頷いて手を差し
出した。

「分かりましたよ……お
じいさん」

おばあさんは何度も頷き
ながらキンカンを受け取
った。

おばあさんは、おじいさ
んの肩に置いていた手で
涙を拭ってから立ち上が
った。

お盆を持って台所へと向
かう。

「毎年、漬けてるんです」

おばあさんが鼻声混じり
で独り言を言う。

ヤカンでお湯を沸かしな
がら、流しの下の扉を開
けて、奥から透明のビン
に詰められたハチミツ漬
けのキンカンを出した。

「ほら、こんなに一杯」

そう言いながら、おばあ
さんの手が小刻みに震え
だす。

おばあさんは震える手と
込み上げる想いを抑えて
紅茶を用意していった。

溢れる涙で視界が滲む。

それでもなんとか紅茶を
入れ終えたおばあさんは、

襖を開けて縁側に出た。