不思議な気持のまま、お
ばあさんは手の平のキン
カンを取り上げてみた。

濃い緑色のキンカンは見
るからに酸っぱそうだ。

おばあさんは、なんだか
可笑しくなって微笑んだ。

そして、若い頃のおじい
さんを思い出した。

二人でキンカンを採って。

ハチミツに漬けて。

紅茶に浮かべて。

よく飲んだ。

おばあさんは急に紅茶が
飲みたくなった。

「おじいさん、今日は煎
茶じゃなくて紅茶にしま
しょう」

そう言いたくておばあさ
んは、おじいさんの肩を
揺らした。

おじいさんの首が力なく
前に倒れる。

おばあさんは咄嗟に、も
う一方の手で口を押さえ
た。

それでも小さな悲鳴が指
の隙間からこぼれた。

胸の辺りからは少しずつ
熱いものが込み上げてく
る。

「……おじいさん……お
じいさん……」

みるみると膨れ上がった
それは、おばあさんの瞳
まで来て涙に変わった。