おばあさんは急須と湯飲
みの乗ったお盆を持って
襖を開けた。

秋の陽射しは穏やかで、
そよ風がキンモクセイの
香りを運んでくる。

おじいさんは眠っている
ようだった。

おばあさんは縁側にお盆
を置いて、白い座椅子に
座った。

そよ風と陽射しが気持い
い。
おばあさんはいつものよ
うに、おじいさんが起き
るまで庭を見ていた。

すると、木の幹の後ろか
ら見事な柄のキジが一羽、
顔を出した。

「まあ」

びっくりしたおばあさん
は声を出してしまった。

驚いたキジが空へ舞い上
がる。

おばあさんは、おじいさ
んにも見せてあげたかっ
たのにと思った。

でもキジは、おばあさん
の前から消えてはいなか
った。

キンカンの枝にとまって
いる。

おじいさんを起こそうか
と、おばあさんは迷った。

枝がカサカサと葉を鳴ら
している。

でも、この距離だとおじ
いさんには見えないかも
知れない。

おばあさんは、そんな事
を考えながらカサカサ鳴
る枝の方を眺めていた。

「バサバサ」

一際大きな音で枝葉が鳴
る。