おじいさんは、しまった
ぁと思った。

もっとよく見たかったの
に。

でもキジは、おじいさん
の前から消えてはいなか
った。

キンカンの枝にとまって
いる。

おじいさんは座椅子を動
かさないように気をつけ
ながらキジの様子を見た。

枝がカサカサと葉を鳴ら
している。

でも、いくぶん目が悪く
なったおじいさんにはキ
ジが何をしているのか分
からなかった。

「キンカンの実はまだ熟
しておらんだろうに」

おじいさんは、そんな事
を考えながらカサカサ鳴
る枝の方を眺めていた。

「バサバサ」

一際大きな音で枝葉が鳴
る。

今度こそ行ってしまった
か。

おじいさんは残念な気持
になった。

すると、先ほどのキジが
庭の真ん中に舞い降りた。

一瞬だけ、大きく広げた
翼が目に入る。

この庭が気に入ってくれ
たのだと思い、おじいさ
んは嬉しくなった。

後ろ向きに舞い降りたキ
ジが向きを変えておじい
さんの方へピョコピョコ
と跳んでくる。

口には、さっき採ったば
かりの濃い緑色のキンカ
ンをくわえている。

おじいさんは瞬きをする
のも忘れてキジの様子を
見ていた。