―――――寒い.
普通の寒さとは違った.

何か、もっと恐ろしいような.


出来事は鮮明に覚えている.
自分たちの乗った船が―――――

薄暗い中、瀬戸は浜辺に打ち上げられた体を起こし、あたりを見渡す.


一人の自分と同じように倒れている女性を見つけた.



「・・・おい!起きて!」


瀬戸は樽谷夏希の肩を揺する.


樽谷夏希はゆっくりと目を開けた.

「・・・僑介.」


恋仲の二人は互いの視線を合わした.


瀬戸はそっと夏希の背中に手をやり、体を起こしてやる.


「大丈夫?・・・」

瀬戸が心配そうにたずねる.
対し、夏希は不安定な笑顔を作り、大丈夫 と返した.