風を感じている。
「………気持ちぃい」
 思わず声が出てしまったのに、
 いつもなら気にするくせに、
 気にしない。

 スカートがひるがえったって、
 気にしない。

 ひんやりとして、
 空気が澄んで、
 どこまでも透って、

 気持ちいい。


 明度の高い空と、
 まだらな雲のバランス。

 私が今、
 こんな風に感じていられるのは、
 きっと、
 全部、終わったからだ。

「ふぁあ……気持ちい~」
 鳥肌は立つけれど、
 この時季が一番好き。

「本当に、高いなぁ……伸ばしても届かないかぁ…」
 ぐぅーっと伸ばした手をグーパーして、
 高い空に伸ばす。

 どこまでも、
 どこまでも、
 どこまでも澄んだ広い空。

 零れ落ちそうな位、
 染み込んでくる。

「…………」

 倒れ込んで見上げる午後の空は薄く、

 ガラスのよう。


「……ふっふふふっふんふっふーふふふふふんふっふー…」

 不意に鼻歌が出てしまった。

 そうか、
 もう、そんな時季だもんね。

「フフフ……」

 あたし独り言、言ってる。

 ううん。
 言ってないけど、
 思ってる。

「フフフフ……」

 きっと、
 冷たい、
 風のせいだ。

 澄んだ空のせいだ。

 この、
 冷えた身体のせいだ。

「…………」

 どこまでも透明な空気と空は、

 鼻先にひんやり、

 冷たい。