じゃくり。

兄がこんがり焼けたパンにかじりつく音が聞こえて、美幸はハッと顔をあげた。

どうやら、ボウッとしていたらしい。

すでに起きてから顔も洗い、制服に着替えているのに、首がうな垂れていた。眠気だろうか。わからないが、とにかくボウッとしていた。かぶりを振って、目を覚ます。

昨日、兄の帰りを待ってそのままソファーで眠ってしまった美幸だが、朝起きてみたら自室のベッドだった。兄が運んでくれたんだろう。記憶にないが、そんな気がする。

(…………あれは、夢じゃなかったのかな……)

と、連結して思い出すのは昨日の、頬へのキスのこと。

静かに、美幸は兄の顔を盗み見た。

きょうだいとして似ているかは、よくわからなかった。

二十四歳の兄は、まだ、十代後半としても通じそうだ。若干の猫背、広く、けれど薄い胸板に、目にかかった黒髪。

最近の男が細く、白く、縦長なように、兄も類に漏れていなかった。ただでさえ、内職で家から出ることも少ないので、不健康にも見える。

それでも、朝が苦手なことを除けば、自分にとってなんの問題もない、素敵な、頼れる兄だった。その事実に、変化は、変異は、ない。