梅雨に入って、珍しくよく晴れたある日の午前中、

私は虹庵に呼ばれて、彼の診療所に出かけていった。


絵の依頼か、珍しい書物でも手に入ったのだろうと思いながら、軽い気持ちで家に上がった私の前に、



いつになく改まった様子で居住まいを正して座った虹庵の口からは、予想だにしなかった言葉が飛び出した。





「鳥英殿、私のもとに嫁に来てはもらえまいか」

──と、


年上のその人は、精悍な顔に優しい表情を作って言ったのだった。