ケータイ小説 野いちご

金魚玉の壊しかた

びいどろの中の二匹の金魚

それから、結城円士郎は数日と間を空けず私の長屋を何度か訪れて、私と蘭学や絵の話をした。

何故かいつも夜で、しかも稽古着姿というのが気になったが……。



円士郎は、町の陶芸家の窯を借りて、器を作って遊んだりもしているらしい。

「ま、たまに絵も描いたりするけどな」

彼がそんな風に言うのを聞いて、私はふと、以前虹庵から見せられた扇の絵を思い出した。



何故、桜と蓮なのか……?



私が気になっていたことを尋ねると、何故かこの時ばかりは彼は口ごもり──


少年のような目で、

「さあね、なんでかな」

と言った。


その様を見て、私は初めて彼が私より三つも年下の若者なのだということを意識した。


別段、日頃の円士郎の振るまいに大人びた所があったというわけでもないが、円士郎と話している時、私は

男でも女でもなく、
年上でも年下でもなく

彼と常に対等でいるかのような──そんな心地よい感覚を味わうことができた。


考えてみれば先法御三家筆頭の次期当主相手に、女の身で随分と無礼な思い込みではあるのだが、

それは結城円士郎なる人物が常に、
身分を鼻にかけたり
女だと侮ったり見下したりせずに人と接するからであり、

それは間違いなく彼の
尊く
得難く
かけがえのない人間的魅力の一つだった。


平等という言葉が受け入れられた未来の日本に暮らす諸君らの感覚からは考えられないほど、

私たちが生きたこの時代に、彼の立場でそのように人と接する者は希有であったのだ。

< 32/ 250 >