『バイオレンスビール』

10月は秋晴れ、早朝の肌寒かった大気は昼前の今ともなるとシャツ一枚でも十分なほどに暖められていた。
静子は窓際に腰掛け、心地よい季節を肴にビールを傾けていた。緩やかな風が静子の頬を撫でて、後ろの殺風景な部屋に流れ込んでいく。腰ほどの高さの棚の上に置かれたミニコンポは古いギタージャズを鳴らしている。ジャンゴラインハルトだ。
そんな、自分の時間を満喫していた静子に、アパートに面した通りから罵声がかけられた。
「若いおなごが、昼間っから酒なんか飲みやがって!」
声の主は近所に住む老婆・トメだった。
「ふん、ババアめ。これでも食らえ!」
静子は空になったビール缶をトメに投げつけた。