ケータイ小説 野いちご

偏愛ワルツ







家に戻ったときには、十時を回っていた。彼女を拾った街は、車で小一時間もかかるところだったのだ。幸い、仕事で数度行ったことがある町田。土地勘もないわけではなく、目印になるところで彼女を拾った。

ただ、そんな待ち合わせも必要なかったのだろう。風景に溶け込み損ねたように立ち尽くす彼女はさながら、私にとって彷徨う天使のようだった。なぜ、ネオンの光さえもくすんでしまうくたびれた街に、彼女のような白無垢がぽつねんとあるのか。

どこへ行こうと変わらないネオン。どこへ向かおうと同じ標識。ありふれた人々。いずれ崩壊するしかないコンクリートの街に、彼女はただ、浮き彫りになっていた。

待ち合わせは必要なかったろう。私は、彼女が予定の場所を離れ、ふらふらと歩いていたとしても、すぐに見つけ出せたのだ。

もしもあんな電話を、妻がしたなら。

私は彼女を見つけられただろうか。

自信はないが、疑いもない。私は妻を見つけられないだろう。

「来て」と淡白に言った少女の言葉は、震えているわけでもなければ、期待もなかった。強い欲望もなければ、切なる願いも含まれていなかった。

ただただ、「来て」とだけ。二言目には、同じセリフに疑問符が添えられた。

「来て?」と。

私はたったそれだけで、事情も聞かず、妻に大した言い訳もせず、車を走らせた。

放っておけなかったのだ。あのとき彼女にかまわなければ、夢を見たように電話があったことも、彼女の儚い言葉も、時間の中へ消化され、それこそなかったことになってしまいそうだった。



< 45/ 52 >